活版印刷の工程のなかに、「返版」という工程がありました。これは、印刷後の活字を活字ケースの所定の位置に戻す作業(活字の再利用)のことです。単純な作業のようですが、重要な工程の一つでした。
吉村印刷が鋳造機を導入し、本文活字の鋳造ができるようになってからは、ほとんどの活字を返版しなくてもよくなり、大幅に作業時間が短縮されました。
しかし、書籍や伝票などの見出しに使う大きな活字(吉村印刷では“荒文字”と呼んでいた)は、自社で鋳造できなかったので、最後まで返版して使っていました。
活字は、長く使っていると端が欠けたり、傷ついたりして使えなくなります。そうなると新しく買わないといけなくなるので、落としたりしないように大切に活字を扱っていました。
返版作業は大変な作業でしたが、活字の配列を覚える勉強にもなっていました。正確に返さないと、次に拾ったときに誤植(誤字)になってしまいます。そのため、必死で場所を覚え、確実にその場所に返版することを徹底していました。パソコン上のソフトで簡単に入力できる今では考えられないほど、大変な工程だったことが分かります。
次回は、いよいよ「植字(組版)」について紹介していきます。