「印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像(著:雪朱里)」を読みました。
この本は、「デザインのひきだし(グラフィック社)」に連載中の「名工の肖像」という、名工たちへのインタビューをまとめたものです。
活字の作製や組版、紙づくり、製版・印刷、製本・加工など、その道を究めてきた名工が語る言葉を、一つ一つ反芻しながら読んでいきました。
なかでも衝撃的だったのが、種字彫刻師の清水金之助さん。
吉村印刷自体も活版印刷の時代が長く、鋳造機で活字を自社生産していたので、今でも母型は大切に残していますが、まさか、あの母型の元となる種字を凸刻していたことには驚きました。実際に印刷する活字と同じ大きさのマッチ棒の先端くらいの面積に、人間の手によって細かく、しかも左右逆字で掘っていたのです。
新人といっても今のように、図面やマニュアルが用意されることも、職人から手取り足取り教えてもらえるわけでもなく、見て盗むしかない時代。
先輩職人が組んだ版を見て版の組み方を学び、先輩職人が席を外したときに作業台を借りて版を組む練習をした、この道40年以上の植字工・森修治さん。手動写植オペレーター・駒井靖夫さんは、写植独自の「一寸ノ巾…」という文字の配列を覚えるため、ヒマがあれば文字盤磨きをしていたそうです。
言葉でつかむだけでなく、人間の目や臭い、何十年にもわたる日々の経験や感覚の世界でつかみとってきた技術。今に継承していくべき内容がつまっている気がしました。戦前から今日にいたるまで、このような先人たちの努力によって、今の印刷業界があることをつきつけられます。
34人の名工を10年にわたって取材し、活字としてまとめられた著者の雪朱里さんの、ものづくりに対する熱意にも感動しました。これから印刷・製本に携わっていくうえで、先人からの貴重なアドバイスをたくさんいただきました。