吉村印刷の工場には、その昔製版作業で使っていた「雲形定規」が、今でも残っています。雲のような形からそう呼ばれていて、大きさや形状が違う曲線を使ってさまざまな曲線を描くことができます。
↑いろいろな形をした雲形定規
「時代をひらく書体をつくる。」(著者は雪朱里さん)という本のなかでこの定規の話が出てきたので、社内を探してみると大切に保管されていました。当時使っていたベテラン社員に使い方などを聞いてみました。
弊社で雲形定規を使っていたのは、まだ写真植字機(パボ、スピカ)が主流の時代。新聞などの飾りのついたタイトル、写真やカット類の真円・楕円や角丸、なめらかな変形の面などを作りたいときに使っていました。
この定規を当て、鉛筆、極細サインペン、烏口(からすぐち)やロットリングペン、グラフォスペンなどで線描。そこからアイクルカッターなどで型を切りぬき・撮影し、マスク(不要な部分を隠す=マスキング)を作っていました。すべて手作業(アナログ)で、熟練の技が必要でした。
伝票類の罫線(細・中・太・極太)は、直線の溝付きテンプレートを使って、主に烏口やロットリングペンで線引きしていました。
↑烏口
↑アイクルカッター
またキャッチフレーズやタイトルなどの文字原稿から、要望に合った描き文字を作成したり、タイトル文句を強調させるバックの地紋・カット・写真・絵などを組み合わせて、お客様が主張したいイメージを形にし、独自のデザイン文字を作成したりしていました。
今では、Illustratorなどの組み版ソフトでさまざまな曲線を描けるようになり、雲形定規の出番はなくなりました。しかし、時代の流れとともに使わなくなった昔の道具も、吉村印刷の長い歴史のなかで培ってきた大事な遺産の一つ。30年~40年働いているベテラン社員からすれば、古い道具や機械たちを見ていると当時を思い出すそうで、とても懐かしそうにしていました。