株式会社吉村印刷

印刷を楽しむブログ

銀河鉄道の夜 活版所のこと


「活版印刷三日月堂」(ほしおさなえ・著)の本にも登場してくる「銀河鉄道の夜」の話が前から気になっていました。先日、1985年に製作された「銀河鉄道の夜」をDVDで観た後、久しぶりに「銀河鉄道の夜」の本も読んでみました。

この本は、1924年(大正13年)に宮沢賢治が初稿を書いた作品です。

銀河のお祭りの日、主人公のジョバンニが学校の帰り道、家には帰らず活版印刷所に行き、活字を拾うシーンがあります。

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ジョバンニが活版所の扉を開けるとたくさんの輪転機がばたりばたりとまわり、たくさんの人達が働いているなか、「これだけ拾って行けるかね」と、一枚の紙きれを渡されます。ジョバンニはテーブルの足もとから一つの小さな平たい函(はこ)を取り出して、小さなピンセットでまるで粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました……。何べんも眼をぬぐいながら活字をだんだん拾いました。拾った活字をいっぱいに入れた平たい箱をもういちど手にもった紙きれと引き合わせてから、さっきのテーブルの人へ持って行き…計算台のところに来ると、白服を着た人から小さな銀貨を一つもらいました。ジョバンニはにわかに顔いろがよくなって威勢よくおじぎをし、おもてへ飛び出しました。それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買うと一目散に走り出しました。具合が悪いお母さんが家で待っているからです…。
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大正時代の活版印刷所でのシーンを読みながら、もう何十年も前の活版時代のことをいろいろと思い出しました。映像では、活字の馬が整然と並んでいるなかで、ジョバンニが棚から一本一本活字を拾っていきますが、せっかく拾った活字を全部落としてしまい、再度拾い直していました。

「小さな平たい函」とは、ゲラ箱のことでしょうか。何べんも眼をぬぐいながら活字を拾うジョバンニ。1枚の紙きれ(原稿)を見ながらの活字拾いは、忍耐と集中力のいる作業で、睡眠をしっかりとって体調を整えておかないと、拾いながら眠くなったり違う字を拾ってしまうこともあります。

拾った後に再度原稿と照らし合わせて確認することなど、当時、著者の宮沢賢治も活版印刷所で校正の仕事をしていたことが伝わってきました。

江戸時代から続いてきた活版印刷。弊社では今は活字を拾うことがなくなりましたが、こうして物語の一行に活版時代の言葉が登場すると、あの頃を懐かしく思い出します。

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