「上皿天秤(うわさらてんびん)」といえば、粉薬の調合やデジタル化されていないときの正確な重さの計量、学生の頃の理科の実験などを思い浮かべると思います。以前からこの年季の入った上皿天秤が大切に弊社工場に保管されているのが気になっていました。
まだ弊社でも活版印刷が主流だった時代、八光や林栄の鋳造機で活字を自家鋳造していました。そういえば、この上皿天秤が鋳造場に置かれていたような記憶があります。
この上皿天秤、どういうときに、どのような役割で使われていたのか。当時を知る先輩社員に聞いて回りましたが「覚えてないなぁ…」との返事。と、ある社員が「これは憶測かもしれないけど…」ということで、思い出しながら話してくれました。
・活字を鋳造したあとの品質、とくに重量の変化をみたのではないか?
・鉛活字の鬆(ス)入り※での重さの変化
・活字鋳造時の贅片(ぜいへん)※の切り落としによる活字の微妙な重さの変化
・5分(ごぶん)、4分(しぶん)などの厚さのうすいコミの精度を重さで調べるため
ということでした。軽量の活字の微妙な変化を天秤で測っていたようです。「上皿天秤」をこのような用途で使っていたのは弊社だけかもしれません。
※「スが入る」とは、本来は均一であるべきものの中にできた空間で豆腐や大根などでいう「ス(気泡)が入る」と同じような意味です。活字にスが入ってしまうと、活版印刷時、圧をかけた時に活字が陥没してしまいます。
※贅片とは、活字を鋳込んだ時にできる尻尾のような形のもので、印刷には不要なのですぐに削り取られますが、鋳造時に溶かした金属を多めに流し入れることでスができることを防ぐ役割があります。この「ぜいへん」という言葉は英語のジェット・ピース(Jet piece)をもじっています。「贅肉」と同様に、余分で不必要なものとみられていたようです。