最近、世界的にアナログの製品やサービスが注目されていますが、印刷においてもアナログが主流だった時代がありました。
今回は、吉村印刷の活版印刷時代のことを、数回に分けて、詳しく紹介したいと思います。
活版印刷とは、活字を1字ずつ拾い、本や新聞、チラシなどの組み版にして、この版に直接インキをつけて印刷するという方法です。
■文選工がおこなう「採字」
活字ケースを並べた馬と呼ばれる台の前に立ち、文選工が原稿を見ながら1本ずつ活字を拾ってステッキやゲラ箱等の入れ物に並べていきます。この作業を「採字」と言います。
活字ケースは12枚が一組で、縦4枚、横3枚に大出張、出張、本場、ひらがなの各ケースが漢和辞典(康煕字典)の法則(一から始まって部首ごとに画数の少ない文字から)で並んでいます。
ケースは、縦290㎜×横390㎜くらいの大きさで、1枚が縦に4段に区切られ、1段が横に細かく(75列あります)仕切られています。文字の使用頻度に合わせて、何列使うかが決められています。
今では、コンピュータで瞬時にどの字がどのぐらい使われているかなど分析できますが、当時はアナログですし、どのようにして活字ケースの配置やスペースを決めていったのか非常に興味深いところです。同時にこのようなケースを創り出したことに感心します。
■活字の並び
ひらがなは、一番よく使うのでど真ん中においてあり、50音順ではなく「いろは」順に並んでいます。「いろは」は日常生活であまり使わないので、慣れるまでは「いろはにほへと…」と順番に言ってみないと出てこず、覚えるのが大変でした。(余談ですが、ひらがなで一番使う文字は何でしょう? 答えは【の】です。)
ひらがなの右にあるケースが大出張と呼ばれ、和数字(漢数字)、約物(。 、「 」・( )など)やコミと呼ばれる詰め物(印刷されないアキの部分に入れるもの)などよく使うものが並んでいます。
上の3枚は出張と呼ばれ、比較的よく使う文字とカタカナが配置されています。その他は、本場と呼ばれ出張に入っていない漢字がこれまた法則的に並んでいます。よく使う字はスペースを広くとってたくさん入るようにし、あまり使わない字は一列だけというものもあります。漢字の種類は何千とあるので、出張と本場に収まりきらないあまり使わない漢字は「外字」と呼ばれ、別のケースに収められています。
欧文や半角数字、ルビ、おたふくと呼ばれる半角の和数字なども別のケースに収められています。英語の文章などを採字するときは、欧文のケースを持ってきて作業していました。
(つづく)